シンセサイザーは、ピアノやオルガンと同じ鍵盤楽器の仲間に見えながら、性格がまったく異なる楽器です。鍵盤を弾くと音が鳴る点は共通していますが、その音がどこから来ているかが違います。
シンセサイザーとは、波形を電気的に合成し、フィルターやエンベロープといった回路で加工して、任意の音色を作り出す電子楽器です。ピアノや一般的なキーボードが「あらかじめ用意された音を再生する」のに対し、シンセサイザーは「音そのものを作る」ことを前提に設計されています。この一点が、電子ピアノやMIDIキーボードとの根本的な違いにつながります。
この記事では、シンセサイザーと他の鍵盤楽器との違い、音が出る仕組み、種類の整理、そして音響メディアらしくライン出力とレベル管理までを順番に解説します。仕組みを押さえておくと、音作りだけでなく、録音や配信で信号を扱うときの判断もぶれにくくなります。
INDEX≡目次
- 1シンセサイザーとは|音を「作る」電子楽器
- 2シンセサイザーとキーボード・電子ピアノ・MIDIキーボードの違い
- ►電子ピアノ:ピアノ音の再現に最適化
- ►ポータブルキーボード:多音色を手軽に
- ►MIDIキーボード:音源を持たない入力装置
- ►比較表で整理する
- 3シンセサイザーの音が出る仕組み
- ►オシレーター:音の素(波形)を作る
- ►フィルター:倍音を削って音色を決める(減算方式)
- ►アンプとエンベロープ(ADSR):音量を時間で動かす
- ►LFO:周期的な揺れを加える
- 4シンセサイザーの種類(アナログ・デジタル・ソフトシンセ)
- ►アナログシンセサイザー
- ►デジタルシンセサイザー(FM音源・PCM音源など)
- ►ソフトシンセ(ソフトウェア音源)
- 5シンセサイザーを録る・配信する|ライン出力とレベル管理
- ►ライン出力とステレオ接続の基本
- ►レベル管理とゲインステージング
- 6まとめ|仕組みを知れば音作りも収録も整理できる
シンセサイザーとは|音を「作る」電子楽器

シンセサイザー(synthesizer)とは、「合成する装置」という名のとおり、電気的に波形を合成して音色を作る電子楽器です。結論から言えば、他の鍵盤楽器との最大の違いは「音を再生するのではなく、音を作る」点にあります。
音の作り方にはいくつかの方式がありますが、入門でもっとも標準的なのが減算合成(サブトラクティブ・シンセシス/Subtractive Synthesis)です。倍音を多く含んだ素の音を用意し、そこから不要な成分をフィルターで削って目的の音色に近づけていく考え方で、後述する「オシレーター→フィルター→アンプ」という信号の流れの土台になっています。
編集部でも、シンセに初めて触れる方には「まずプリセット音色を鳴らしてみる」ことをおすすめしています。プリセットだけでも演奏や制作には十分使えます。ただ、各セクションの役割を理解しておくと、音色を少し調整したいとき、あるいは録音で音量バランスを整えたいときの動きが格段に速くなります。
シンセサイザーとキーボード・電子ピアノ・MIDIキーボードの違い
鍵盤楽器はどれも見た目が似ているため混同されがちですが、判断軸は2つに絞れます。「音を作れるかどうか」と「音源を内蔵しているかどうか」です。この2軸で並べると、それぞれの性格がはっきりします。
電子ピアノ:ピアノ音の再現に最適化
電子ピアノは、ピアノの音やタッチを再現することに最適化された楽器です。鍵盤数は88鍵や76鍵が主流で、スピーカーを内蔵しているものが多く、本体だけで演奏が完結します。既存の曲を弾く用途に向いており、音作りは想定されていません。
ポータブルキーボード:多音色を手軽に
いわゆるポータブルキーボードは、61鍵程度が主流で、ピアノ・オルガン・ストリングスなど多数の音色をあらかじめ内蔵しています。手軽に持ち運べて多彩な音を出せる一方、シンセのように音を一から作り込むことは基本的にできません。
MIDIキーボード:音源を持たない入力装置
MIDIキーボードは、ほかの3つと性格が大きく異なります。MIDI(Musical Instrument Digital Interface/ミディ)は電子楽器同士やパソコンと演奏情報をやり取りする規格で、MIDIキーボード自体は音源を内蔵していません。鍵盤を弾いて出るのは「どの音を、どの強さで、いつ弾いたか」という演奏データだけで、実際の音はパソコンのソフト音源などが鳴らします。つまりMIDIキーボードは「演奏を入力するためのコントローラー」です。
なお、シンセサイザーの多くはUSBやMIDI端子を備えており、それ自体をMIDIキーボードとしてパソコンに接続して使うこともできます。
比較表で整理する
整理すると、音源を内蔵し、かつ音を一から作れるのがシンセサイザー。音源を内蔵するが音作りはしないのが電子ピアノとポータブルキーボード。音源を持たず入力に徹するのがMIDIキーボード、という棲み分けになります。
シンセサイザーの音が出る仕組み
シンセサイザーの音は、大きく分けて「オシレーター→フィルター→アンプ」という3つのセクションを信号が通って作られます。さらに、その3段に対して時間変化を与えるエンベロープと、周期的な揺れを与えるLFOが加わります。この流れを押さえることが、シンセ理解の核心です。
オシレーター:音の素(波形)を作る
オシレーターは、音の素となる波形を発生させるセクションです。代表的な波形には、明るく倍音の豊かなノコギリ波、芯のある矩形波、柔らかい三角波、倍音をほとんど含まないサイン波、そして音程を持たないノイズなどがあります。鍵盤から受け取った音程情報に合わせて、これらの波形が鳴ります。
フィルター:倍音を削って音色を決める(減算方式)
フィルターは、オシレーターが作った音から特定の周波数成分を削るセクションです。高い周波数を削るローパス・フィルター、低い周波数を削るハイパス・フィルター、指定した帯域だけを残すバンドパス・フィルターなどがあります。倍音の豊かな音から不要な成分を削って音色を作るこの考え方が、前述した減算合成です。どこから削るかを決めるのがカットオフ、削る境目を強調するのがレゾナンスで、この2つが音色づくりの中心になります。
アンプとエンベロープ(ADSR):音量を時間で動かす
フィルターを通った音は、アンプ(音量を制御するセクション)へ送られます。ここで重要なのがエンベロープです。エンベロープは音量などが時間とともにどう変化するかを決める仕組みで、一般にADSR、すなわちアタック(Attack=立ち上がり)、ディケイ(Decay=減衰)、サスティン(Sustain=保持レベル)、リリース(Release=余韻)の4つのパラメーターで表されます。アタックを速くすれば打鍵音のように立ち上がり、遅くすれば弦が膨らむような音になります。
編集部の感覚では、音色を変えたいときにまず触ると変化を掴みやすいのは、フィルターのカットオフとこのADSRです。波形を選び直す前に、この2か所を動かすだけでも印象は大きく変わります。
LFO:周期的な揺れを加える
LFO(Low Frequency Oscillator/ロー・フリケンシー・オシレーター)は、ゆっくりとした周期の信号を作り、ほかのパラメーターを周期的に揺らすためのセクションです。音程を揺らせばビブラート、音量を揺らせばトレモロ、フィルターのカットオフを揺らせばワウのような効果になります。直接は聞こえない縁の下の役割ですが、音に動きを与える要素です。
シンセサイザーの種類(アナログ・デジタル・ソフトシンセ)
シンセサイザーは、音の合成方法で「アナログ」と「デジタル」に大別でき、実装の形で「ハードウェア」と「ソフトウェア」に分かれます。結論として、現代の製品は両者を組み合わせたハイブリッド型も多く、明確に一方とは言い切れないモデルも増えています。
アナログシンセサイザー
アナログシンセサイザーは、電子回路そのもので音を合成するタイプです。回路で波形を生成し、フィルターやアンプも回路で処理します。設定に応じた連続的な変化や独特の質感が魅力とされ、減算合成の基本を学ぶ題材としても分かりやすい構成です。
デジタルシンセサイザー(FM音源・PCM音源など)
デジタルシンセサイザーは、コンピューターのプログラムで音を合成するタイプです。音源方式には複数あり、代表的なものに、ある波形を別の波形で変調して複雑な倍音を作るFM音源(Frequency Modulation/周波数変調)、あらかじめ録音した波形を再生して音にするPCM音源(Pulse Code Modulation)などがあります。ピアノや生楽器に近い音はPCM系、金属的・電子的な音はFM系が得意とされます。
ソフトシンセ(ソフトウェア音源)
ソフトシンセは、パソコンやスマートフォン上で動くソフトウェアとして実装されたシンセサイザーです。DAW(音楽制作ソフト)上でプラグインとして動かすものが多く、ハードウェアを持たなくても多彩な音色を扱えます。一方で、音をスピーカーやレコーダーへ届けるにはパソコンの音声入出力が必要で、ここでオーディオインターフェースが役割を担います。ハードシンセが本体のライン出力から音を出すのに対し、ソフトシンセはオーディオインターフェース経由で音を出す、という違いがあります。
シンセサイザーを録る・配信する|ライン出力とレベル管理
ハードウェアのシンセサイザーを録音したり配信に乗せたりするとき、押さえておきたいのが「出力はライン信号である」という前提です。マイクやギターより強い、レベルの揃った信号として扱う、という意味です。ここを理解しておくと、接続もレベル設定も整理しやすくなります。
ライン出力とステレオ接続の基本
シンセサイザーの音声出力は、一般にライン出力で、アンバランスのTSフォーン端子が使われることが多いです。デジタルシンセはステレオで音を出すものが多く、その場合は出力がL/Rの2つに分かれているため、ケーブルを2本使ってオーディオインターフェースのライン入力2系統へ接続します。受け側も、フォーン端子のライン入力が2つあるモデルを選ぶとステレオで取り込めます。
ステージや収録現場で出力からミキサーまでの距離が長くなる場合や、アンバランスのまま引き回してノイズが気になる場合は、DI(ダイレクトボックス)を挟んでバランス信号に変換する手もあります。編集部でも、モノラル音色を鳴らしているときほど片チャンネルだけ挿して反対側が無音になる取りこぼしが起きやすいので、L/Rの両方が来ているかを接続時に目視で確認するようにしています。
レベル管理とゲインステージング
接続できたら、次は入力レベルです。一般的な目安として、シンセ側の出力レベルは最大の70%程度に設定すると扱いやすいとされています。録音側では、24ビットで収録する場合、ピークが-12dBFS前後に収まる程度を基準にすると、歪ませず、かつ十分なレベルを確保できます。
こうした「各段で適切なレベルに整える」考え方がゲインステージングです。シンセの出力が強すぎれば入口で歪み、弱すぎれば後段でノイズが目立ちます。仕組みの章で触れたエンベロープやフィルターの設定によって出力の最大音量は変わるため、音作りを変えたら入力レベルも見直す、という習慣が役立ちます。
まとめ|仕組みを知れば音作りも収録も整理できる
シンセサイザーとは、波形を合成しフィルターやエンベロープで加工して音色を作る電子楽器で、音を再生する電子ピアノやポータブルキーボード、音源を持たないMIDIキーボードとは性格が異なります。音はオシレーター→フィルター→アンプの流れで作られ、エンベロープ(ADSR)とLFOが時間的・周期的な変化を加えます。種類はアナログ/デジタル、ハード/ソフトで整理でき、現代はハイブリッドも一般的です。
そして音響メディアの視点で重要なのは、その音を最終的にどう外へ出すかです。ライン出力とステレオ接続、適切なレベル管理まで意識できると、音作りと収録・配信が一本の線でつながります。仕組みを押さえることが、その第一歩になります。