エレキギターの音色を最も大きく左右しているのは、ボディの木材でもアンプでもなく、弦の振動を電気信号に変える「ピックアップ」です。シングルコイルとハムバッカー、そして P90 と呼ばれる第三の選択肢。さらにパッシブとアクティブ、出力インピーダンスをどう扱うか。音響メディアの視点で、構造・出力・インピーダンスの3点からピックアップを読み解いていきます。読み終える頃には、自分のギターのキャラクターが「なぜそう聞こえるのか」を、メーカーやモデル名に頼らずに言語化できるはずです。
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ギターピックアップとは|弦の振動を電気信号に変える「マイク」
ピックアップは、磁石とコイル(巻線)を組み合わせた小さな発電装置です。ボディに埋め込まれた磁石がスチール弦を磁化し、弦が振動するとコイルに電圧が誘起される仕組み。電磁誘導と呼ばれる物理現象を、そのまま楽器の音色生成に転用したものと言えるでしょう。
ここで「ピックアップはマイクと同じ」と書かれることがあります。これは比喩というより構造的に正確で、ムービングコイル型のダイナミックマイクと発電原理は一致するものです。違いは、マイクが空気の振動でダイアフラムを動かして発電するのに対し、ギターピックアップは弦そのものの振動で磁束変化を作る点にあります。
編集部が録音現場で感じるのは、ピックアップの位置(ネック側/ブリッジ側)を切り替える操作が、マイク立て位置を変える行為とよく似ているという点です。ネック側はアタックが穏やかで丸く、ブリッジ側はアタックが速くタイト。これは弦の振幅が場所によって違うためで、マイクを音源の近くに寄せるか少し離すかという発想と同じ構図と言えます。
コイル数(1 vs 2)と巻き方向の組み合わせで、ハムバッカーは電源由来の交流ハム(50/60Hz)を逆相で打ち消す。DCR・インダクタンスもコイル数に応じて大きくなる。
シングルコイルとハムバッカーの違い|コイル数とノイズキャンセル
シングルコイルは、その名のとおりコイルが1基だけの構造です。6本のポール(磁極)を一列に並べ、上から薄い金属カバーをかけたものが代表で、Fender ストラトキャスターやテレキャスターでお馴染みの形状になります。煌びやかでアタックが速く、コードのキラキラ感やカッティングの粒立ちで強い個性を発揮するのが持ち味です。
ハムバッカーは、コイルを2基並べて逆巻き・逆磁極で接続した構造を取ります。電源由来の交流ハム(hum、概ね 50/60Hz)は、左右のコイルで逆相に拾われるため打ち消され、弦の振動成分だけが残る仕組みです。語源も「hum」を「buck(打ち消す)」する装置で「humbucker」。Gibson レスポールや SG のフロント/リアで広く採用され、シングルより太く、歪みとの相性が良い音になります。
数値で見ると、コイル数の違いはそのまま電気的な性格に表れます。直流抵抗(DCR、Direct Current Resistance)は、シングルが概ね 6〜7kΩ、ハムバッカーは 7〜16kΩ超まで広く分布。インダクタンス(巻線の磁気エネルギー蓄積能力)は、シングルが 2〜3H(ヘンリー)、ハムは 4〜9H 程度というのが一般的な目安です。インダクタンスが大きいほど共振周波数が低くなり、高域が落ちて中低域が前に出る=「太くダーク」に聞こえる、という関係になります。
公式スペックを横並びで眺めてみましょう。Fender American Vintage II 1965 Stratocaster に搭載される Pure Vintage ’65 ピックアップは、ネック 6.26kΩ/ミドル 6.34kΩ/ブリッジ 6.43kΩ という値で、典型的なヴィンテージ・シングルの設計です。一方、Seymour Duncan の代表機種 SH-4 JB は DCR 約 16.4kΩ、アルニコ5マグネット、共振ピーク 5.5kHz と公表されており、高出力ハムの定番として位置づけられます。DiMarzio の DP100 Super Distortion は DCR 13.68kΩ、出力電圧 425mV、セラミックマグネット、4芯リード線という仕様で、1972年に「世界初のリプレイスメント・ハムバッカー」として登場したモデルになります。
なお「シングルはノイズが多い」とよく言われますが、これは構造の宿命の話と、ステージ/スタジオ環境で実際にどれだけ問題になるかの話を分けて考えたいところ。アース・シールド処理・電源環境を整えれば、シングルでも長尺の収録に耐える静けさを作れる場面は多くあります。ギター自体の選び方の前提として、エレキギターのモデル系統の違いは エレキギターの種類とは も合わせて参照すると整理が早いです。
P90 の位置づけ|シングル系なのに出力が大きい理由
P-90 は、Gibson が1946年頃から本格採用したシングルコイル系のピックアップです。コイルは1基ですが、磁石はバー型を下に2本配置し、コイルを幅広く・薄く巻く構造を取ります。この設計により、シングルコイルの音色傾向を保ちながら、出力と中域の厚みを稼げる点が特徴です。
DCR は概ね 7〜9kΩ で、Fender 系の標準シングル(6kΩ台)より高めの値が一般的。インダクタンスは 4〜7H 程度とされ、シングルとハムの中間に位置します。聞こえ方は「シングルよりミッドが太く、ハムよりエッジが立つ」と表現されることが多く、ロック、ブルース、インディ系、ジャズ系のセミアコ/フルアコまで幅広く支持されてきました。
搭載モデルとしては、Gibson Les Paul Junior、ES-330、SG Junior などが代表で、いずれも P-90 ならではの中域の鳴りを活かしたモデル群です。Fender 系には純正搭載例はほぼ見当たりませんが、Seymour Duncan や DiMarzio から P-90 サイズ/ソープバー筐体のリプレイスメント製品が出ており、ストラト/テレキャスにマウントするカスタムも比較的容易に組めます。配信収録や小規模ライブで「シングルほど細くなく、ハムほど飽和しない」中庸の音を狙いたいときに、選択肢として面白いポジションだと言えるでしょう。

パッシブとアクティブの違い|電池・出力インピーダンス・ノイズ
ここまで触れたシングル/ハム/P90 はいずれも、磁石とコイルだけで音を作る「パッシブ」型です。電池は不要で、信号はそのままハイインピーダンスで出力される構成。Fender、Gibson、Seymour Duncan、DiMarzio などの主要メーカーが扱うピックアップの大半は、このパッシブ型に分類されます。
これに対し、内部に小型プリアンプを内蔵し、9V 電池で駆動するタイプを「アクティブ」と呼びます。代表格は EMG で、出力インピーダンスを能動回路でローインピーダンスへ変換し、外来ノイズや長いケーブルの影響を受けにくいフラットな信号を取り出す設計です。
EMG 81 の公式スペックを引用すると、平均出力電圧 1.25V/最大 1.75V、ストリング 3.00/ストラム 4.50、出力インピーダンス 10kΩ、ノイズ −91dBV と公開されています。電源は9V電池で、フルセット(ピックアップ複数基)での平均寿命は約1,000時間が EMG 公式の目安(単体での参考値は約3,000時間)。さらに9V電池を2本直列にして 18V 駆動にする改造も可能で、ヘッドルームが広がるサウンドが得られる点も EMG 公式が紹介しています。
容量に影響されやすい
≒1MΩ ハイ受け
9V 電池駆動
影響を受けにくい
EMG 81 公式値:平均出力 1.25V/最大 1.75V、出力インピーダンス 10kΩ、ノイズ −91dBV、9V 電池1本でフルセット時 約1,000時間。アクティブはハイインピーダンス→ローインピーダンスへ能動変換するため、長尺ケーブルでも高域が落ちにくい。
パッシブとアクティブの違いを「電池の有無」だけで語ると、本質を取り違えがちです。実際の差は次の3点に集約されます。第一に、出力インピーダンス。アクティブは10kΩ前後のローインピーダンスで信号を出すため、ケーブル容量の影響を受けにくく、長距離引き回しでも高域が落ちにくい設計です。第二に、ノイズ耐性。シールド外からの誘導ノイズの影響をローインピーダンス信号が受けにくく、ハイゲインでも比較的静かに収まる傾向があります。第三に、ダイナミクスのキャラクター。アクティブはピーク付近で滑らかに伸び、ピッキング強弱の出方がやや均質化される印象です。
ライブ/配信/放送のように長時間の収録現場では、アクティブが圧倒的に運用しやすい場面が多いというのが編集部の実感。一方で、ヴィンテージ系の倍音バランスや、ピッキングへの素直な反応を重視するならパッシブが向いています。ノイズ問題は配線・アース・電源環境でも作れるため、「ノイズが嫌だからアクティブ」と短絡しないほうが選択の幅は広がるはずです。
インピーダンスと出口側の機材|アンプ/DI/オーディオインターフェース
パッシブピックアップを搭載したエレキギターは、典型的に 250kΩ〜500kΩ という非常に高い出力インピーダンスを持ちます。これを「ハイインピーダンス出力(Hi-Z 出力)」と呼ぶのが業界の通例。出口側の機材がこの高い出力インピーダンスをどう受けるかで、音は大きく変わってきます。
ギターアンプの Input ジャックは、おおむね 1MΩ前後のハイインピーダンス入力として設計されています。出力(数百kΩ)より入力(1MΩ)のインピーダンスが大きい「ロー出しハイ受け」の関係が成立するため、ギターをアンプに直挿ししても周波数特性が大きく崩れず、想定どおりの音が出る仕組みです。ギターアンプとピックアップの相性が良いのは偶然ではなく、こうしたインピーダンスマッチングが前提として設計されているため。アンプ側の入力段の役割は ギターアンプとは で詳しく解説しています。
問題になるのは、PA ミキサーや録音卓のライン入力(一般に数〜数十kΩ程度)にギターを直挿しするケースです。この場合、ハイ受けが取れず、ゲイン不足や音痩せ、外来ノイズの増加といった症状が出ます。そこで現場では DI(Direct Injection、ダイレクト・インジェクション) を挟み、ハイインピーダンス・アンバランスの信号を、ローインピーダンス・バランスへ変換した上で長距離をマイクケーブルで送る運用が標準。DI の役割と使い分けについては DIボックスとは を参照してください。
宅録や配信でオーディオインターフェースに直挿しする場合は、Hi-Z 入力(≒1MΩ前後の高インピーダンス入力)を選びます。Focusrite Scarlett や YAMAHA AG/Steinberg の UR シリーズなど、現行のインターフェースの大半はチャンネル1または2に Hi-Z 切替スイッチが用意されています。アクティブピックアップは出力時点でローインピーダンスに変換されているため、Hi-Z でなく通常のライン入力でも音は取れますが、製品によっては Hi-Z 経由のほうがキャラクターを保ちやすい場合もあるため、両方試してみるのが無難。オーディオインターフェース側の前提知識は オーディオインターフェースとは にまとまっています。
ピックアップ選びの基礎|ジャンルだけで決めない
「ロックならハム、カッティングならシングル」のように、ジャンルから逆算してピックアップを決める方法は、間違いではないものの、現代の音楽制作の幅を考えると窮屈です。Sound Picks としては、ピックアップ選びを次の3軸で見ることをおすすめします。
第一軸は 音色イメージ=コイル数とインダクタンス。シングルは高域寄り、ハムは中域寄り、P90 はその中間。同じハムでも、低インダクタンス設計のヴィンテージ系(例:Gibson Burstbucker 1 など 7.5kΩ前後)と、高出力設計(例:Seymour Duncan SH-4 JB の 16.4kΩ)では別物として聞こえます。
第二軸は 出力レンジ=DCR と出力電圧。高出力ピックアップは歪みエフェクター/アンプを軽くドライブさせやすい反面、ピッキングの強弱でのニュアンスは犠牲になりがちです。クリーンを軸に組み立てるなら、出力は控えめのほうが扱いやすいと言えます。
第三軸は 出口=どう受けるか。アンプ直なら 1MΩ ハイ受けが成立。PA や録音卓へ送るなら DI を挟む。オーディオインターフェース直挿しなら Hi-Z 入力を使う。アクティブピックアップは、この出口側の制約を緩めてくれる選択肢として位置づけられます。
そして実用上、ピックアップを交換する前に試したい3点があります。弦・ピック・出口側のセッティングです。弦のゲージや材質は出力感を大きく変えますし(エレキギター弦の選び方)、ピックの厚みや素材はアタック成分のキャラクターを左右します。アンプの入力ゲインや DI の Pad、ペダルの接続順(エフェクターの接続順)も、ピックアップ交換に匹敵する変化をもたらすため、合わせて検討したいところ。
編集部の現場経験として、小規模ライブハウスの PA を手伝う際にいちばん時間を割くのは、ピックアップそのものではなく、ケーブルの取り回しと DI の選定、そしてアンプ/オーディオインターフェース側のゲイン構造のチェックです。「ピックアップを替えれば解決する」と思っていた問題の多くが、信号経路の見直しだけで改善することは珍しくありません。
まとめ|「弦→ピックアップ→出口」で考える
ギターピックアップは、弦の振動を電磁誘導で電気信号に変える小さな発電装置です。シングルコイル・ハムバッカー・P90 の違いは、まずコイル数とインダクタンス、次に直流抵抗と出力電圧で読み解けます。パッシブとアクティブの差は「電池の有無」ではなく、出力インピーダンスとノイズ耐性として整理するとブレません。
そして最後に、出口側=アンプの 1MΩ ハイ受け、DI の役割、オーディオインターフェースの Hi-Z 入力までセットで理解して初めて、ピックアップ選びの軸が定まります。Sound Picks ではエレキギター本体(エレキギターの種類)、弦(エレキギター弦)、アンプ(ギターアンプとは)、DI(DIボックスとは)、オーディオインターフェース(オーディオインターフェースとは)の解説を併載しています。本記事のピックアップ視点と組み合わせて読むと、エレキギターの音作りを「弦→ピックアップ→出口」のひとつながりとして理解できるはずです。