エフェクターをボードに並べ始めて、ふと「サー」「ブーン」と耳につくノイズが気になり始めた経験はないでしょうか。多くの場合、原因はギター本体やケーブルではなく電源側に潜んでいます。
エフェクター電源で押さえるべき結論は3点です。第一に、現行ペダルの大半はDC9V センターマイナスを標準としており、プラグ径は外径5.5mm/内径2.1mmが業界共通の規格です。第二に、複数台を同時に駆動するなら消費電流の合計をパワーサプライ容量の3/4以下に収めること。第三に、ノイズを根本から断ちたいならアイソレート出力を選ぶこと。この3つを外さなければ、足元の電源で悩む時間は確実に短くなっていきます。
本記事では、編集部がライブPAや配信現場で実際に遭遇した電源トラブルを織り交ぜながら、電源の種類・スペックの読み方・現場でのトラブル切り分けまでを整理しました。エフェクターの並び順そのものに迷っている方は、先に「エフェクターの順番」もあわせてご覧いただくと、全体像がつかみやすいはずです。
INDEX≡目次
- 1なぜエフェクター電源は「音の起点」になるのか
- ►電源ノイズはギターの後段すべてに伝わる
- ►PA卓・配信卓まで届く「ブーン」の正体
- ►まず疑うのは電源、ケーブルや本体ではない
- 2エフェクター電源の種類と長所短所
- ►電池駆動(9V角型)
- ►単機ACアダプター
- ►デイジーチェーン分岐
- ►パワーサプライ(非アイソレート/アイソレート)
- 3電圧・電流・極性の基本(業界標準を押さえる)
- ►9V センターマイナスが事実上の標準
- ►12V/18V を要求するペダルへの対応
- ►プラグ径とBOSS規格
- 4失敗しないパワーサプライの選び方
- ►消費電流の合算と「3/4ルール」
- ►デジタル機・大電流ペダルの分離
- ►メーカー横並びで見るスペック比較
- 5現場での扱い・トラブル対策
- ►ライブでハム音が出たときの切り分け手順
- ►配信現場で電源由来ノイズを避ける配線
- ►アースとループに敏感な機材との併用
- 6まとめ|電源は「音作り」ではなく「音を汚さないための土台」
なぜエフェクター電源は「音の起点」になるのか

エフェクター電源は、足元の小さな話に見えて、実はギターアンプから先のすべての音響経路の起点です。電源由来のノイズはペダル内部で混入したあと、後段のすべて、つまりアンプ・マイク・PA卓・スピーカーへと段階的に増幅されていきます。入口で混じったノイズは出口では取り除けません。
電源ノイズはギターの後段すべてに伝わる
エフェクター内部で乗ったノイズは、出力信号と一体化した状態で次のペダル、アンプへと送られます。コンプレッサーや歪み系のあとで増幅されたとき、入口では小さかった「サー」が、出口では明確な雑音として顔を出します。信号経路の最初に位置する電源回路の純度こそ、最終的な音像の透明感を決める要素と言えるでしょう。
PA卓・配信卓まで届く「ブーン」の正体
ライブ会場や配信現場でしばしば話題になる「ブーン」というハム音は、典型的に50Hzまたは60Hzで現れます。これは商用電源の周波数そのものです。エフェクター電源のアースが他機材と干渉してループを作ると、この周波数帯のノイズがマイクラインへ回り込むことが少なくありません。サウンドハウスの解説でも、典型的なハム音として50/60Hzが挙げられています。
編集部が小規模ライブハウスでPAを手伝った際、ギタリストが新調したデジタルディレイを足した瞬間からハムが急に増えた事例があります。原因は、デジタル機特有の大電流ノイズが、同じパワーサプライを共有していたアナログペダル側に回り込んでいたことでした。電源の見直しだけで、ハウリングへ至る前段のノイズフロアが下がりました。ハウリングの原因切り分けについては「ハウリングの原因」で詳しく整理しています。
まず疑うのは電源、ケーブルや本体ではない
ノイズが乗ったとき、まずシールドケーブルやギターのピックアップを疑う方が多い印象です。しかし現場の感覚では、複数台のエフェクターを並べた状態で出てきたノイズの少なくない割合が電源系に由来します。ケーブルや本体を交換する前に、電源を1系統だけに切り分けて鳴らしてみる。これが切り分けの最短ルートです。
エフェクター電源の種類と長所短所
エフェクター電源には大きく分けて4種類あります。電池駆動、単機ACアダプター、デイジーチェーン分岐、そしてパワーサプライです。ボード規模が3台を超えたあたりからパワーサプライ化が現実的で、6台以上ならアイソレート出力の検討に入ります。
電池駆動(9V角型)
9V角型電池(006P)は、もっとも歴史の長い供給方法です。電源回路を共有しないため個体間のノイズ干渉は原理的に起きません。一方でデジタル機は消費電流が大きく、数時間で電圧降下を起こすことが珍しくありません。アナログのオーバードライブ1台にスペアの006Pを忍ばせておく運用は、いまも一定の現場で定番です。
単機ACアダプター
BOSS製品で広く普及しているPSA-100S2に代表される9V/500mAクラスの安定化アダプターは、1機種に1個の前提で設計されています。1〜2台のシンプルなボードなら、専用アダプター直挿しが最もノイズの少ない構成です。3台を超えるとコンセント側の取り回しが現実的でなくなります。
デイジーチェーン分岐
1出力を分岐ケーブルで複数のペダルへ送る方法をデイジーチェーンと呼びます。電源回路は1系統のため各ペダルはグラウンドを共有します。安価で軽量という利点はありますが、デジタル機が混じると干渉ノイズが出やすく、グラウンドループも起きやすい構成です。アナログの歪み数台までなら実用範囲ですが、ボードが育つにつれ限界が見えてきます。
パワーサプライ(非アイソレート/アイソレート)
パワーサプライは、安定化された電源を複数のペダルへ分配する専用機です。非アイソレート型は内部で並列接続のため安価ですが、デイジーチェーンと同様にノイズ干渉が起きえます。アイソレート型は各出力が独立したトランス回路を持ち、出力間がガルバニック絶縁されています。原理的に他のペダルが流すノイズが回り込みません。ノイズに本気で取り組むなら、現時点での標準回答はアイソレート出力です。
電圧・電流・極性の基本(業界標準を押さえる)
エフェクター電源の規格は一見ばらばらに見えますが、実態としては9V センターマイナスがほぼ業界標準として収束しています。例外を把握しておけば、ボード設計の段階で迷いは減ります。
AC入力 → 各出力をアイソレート(絶縁)
(OD / DS) 9V 標準系・低消費電流
ペダル 12V / 18V 可変ポートで供給
(マルチ等) 9V 専用 別ポートで分離
9V センターマイナスが事実上の標準
BOSSが1970年代から採用したDC9V センターマイナス・プラグ径5.5mm/2.1mmの仕様は、その後ほとんどのコンパクトエフェクターメーカーが踏襲しました。サウンドハウスの解説でも、エフェクター用ACアダプターの多数派はこの規格と紹介されています。新しく購入したペダルが「9V センターマイナス」と書かれていれば、まず標準系と考えて差し支えありません。
12V/18V を要求するペダルへの対応
一部のペダルは内部でヘッドルームを確保するため、12Vや18Vを要求します。Strymonの一部モデルや、ヴィンテージ系の復刻機、ベース用プリアンプの一部がこの系統です。9Vしか供給できないパワーサプライにそのまま挿しても動作しません。可変電圧出力を1系統備えたモデルか、専用昇圧ケーブルを別途用意する必要があります。Strymon公式が公開しているZuma R300の仕様では、5系統のうち1系統が9V/12V/18Vで可変できる設計とされています。
プラグ径とBOSS規格
プラグの外径5.5mm/内径2.1mmはBOSS規格として広く採用されています。例外は古いMXR系の一部(プラグ径違い)や、欧州ブランドのごく一部です。極性を逆に挿すと内部回路がショートして即座に故障するペダルもあるため、初めて触る機材では極性表示を一度確認しておくのが安心です。編集部でも、ライブ前にスタッフが他社規格のアダプターを誤挿しして電源回路を飛ばしたケースに立ち会った経験があります。
失敗しないパワーサプライの選び方
パワーサプライ選びの軸は、消費電流の合算・電圧の選択肢・アイソレート出力数の3点に絞られます。価格やサイズはこの3点を満たしたあとに考える順序が現実的です。
消費電流の合算と「3/4ルール」
すべてのペダルにはmA単位で消費電流の仕様が公開されています。たとえばBOSSのDS-1は4mA程度ですが、デジタル化されたDS-1Xは45mA前後と、桁が変わります。マルチエフェクターや空間系のデジタルペダルは300〜500mAを単独で要求するモデルも珍しくありません。
パワーサプライを選ぶ際は、接続するペダルの消費電流を合算し、パワーサプライの総容量の75%以下に収めることが望ましいとされています。容量ぎりぎりまで使うと、電圧降下や供給安定性の低下が顕在化しやすくなります。アンブレラカンパニーの解説でも同様の指針が示されました。
デジタル機・大電流ペダルの分離
デジタル機は瞬間的に大きな電流を要求します。アナログの歪みと同じ電源回路を共有すると、デジタル側のスイッチングノイズがアナログ側に流れ込みます。アイソレート出力を1系統占有させ、デジタル機は専用ポートに割り当てる。これがボードを大型化する際の鉄則です。
Free The Toneが公開しているPT-3Dの仕様では、独立した2系統のアイソレート出力(9V/500mA)に加え、起動時に瞬間的に1A超を要求する一部のデジタル機にも対応する設計とされています。デジタル機混在のボードでは、起動電流のスペック表記まで確認する価値があります。
メーカー横並びで見るスペック比較
主要メーカーのフラッグシップ/中核モデルを公式スペックで並べると、設計思想の違いが見えてきます。価格は変動するため販売店で確認してください。
CIOKSのDC7(デンマーク)は、7系統すべてがアイソレート出力で、各ポートが9V/12V/15/18Vから選択可能です。9V時で1ポートあたり660mA、18V時でも300mAを供給します。総出力は48Wで、これに5V USBと24V補助出力を備えます。高電流デジタル機を複数搭載するペダルボードに向いた設計と言えます(CIOKS公式)。
Voodoo LabのPedal Power 3は、8系統のガルバニック絶縁出力を持ち、各出力9V/500mAを供給します。うち2系統は12V切替が可能です。後継のPedal Power 3 PLUSは12出力構成です。ガルバニック絶縁はハム除去とペダル間干渉除去に直接効きます(Voodoo Lab公式)。
StrymonのZuma R300は5系統のアイソレート出力を備え、各9V/500mA、1系統は9V/12V/18Vの可変出力です。2段階のアイソレーションと、24V DCをAC入力から絶縁する設計でグラウンドループとAC由来ノイズを抑える方向に振っています(Strymon公式)。
Free The ToneのPT-3Dは、アイソレート出力2系統(9V/500mA)に加え、低ノイズ標準出力6系統(9V/100mA)の合計8出力構成です。アナログ中心のボードを低コストでまとめつつ、デジタル機2台までは独立給電できる、国産らしい現実的な配分です(Free The Tone公式)。
Custom Audio Japan(CAJ)のAC/DC Station VIは、9V出力を8系統備え、合計450mAを供給します。出力電圧は約9.65Vに設定されており、これは新品の9V電池に近い電圧です。電池駆動時の音色感を再現するチューニングと公式に説明されています(CAJ/岡田商事)。
メーカーごとに「高電流・多電圧対応」「低ノイズ」「電池新品再現」など重視する設計思想が異なります。自分のボードの規模と、デジタル機の割合から逆算して選ぶのが、結局のところいちばん外しません。
現場での扱い・トラブル対策
ライブ・配信の現場では、リハーサルの段階で「なぜか唸る」が頻発します。電源は変数が多く、毎回違う電気環境に持ち込むため、現場で素早く切り分ける手順を持っておくと安心です。電源由来のノイズを引きずったまま卓へ送ると、その先ではゲインステージング(ゲインステージング)でいくら整えても残ります。
ライブでハム音が出たときの切り分け手順
「ブーン」が止まらないとき、編集部が現場で実行する切り分けは以下の順序です。第一に、ペダルボードのアダプターをいったん抜き、電池駆動できる1台だけで音を出してみます。これでノイズが消えれば、ほぼ電源由来と判断できるでしょう。第二に、パワーサプライを別のコンセント系統に差し替えます。会場の照明回路と同じ系統を共有していると、調光器のノイズが乗ることも珍しくありません。第三に、アンプ側のアースリフトスイッチを試してみてください。
それでも残るなら、デジタル機を1台ずつ抜いて確認していきます。詳細な対処は「ハウリング対策」も参考になるはずです。
配信現場で電源由来ノイズを避ける配線
配信現場では、ギター→パワーサプライ→PCオーディオインターフェース→USBハブまで、すべてが共通のアース電位を持つ可能性があります。これがグラウンドループの温床です。ギターのラインをDI-Boxで一度バランス化し、グラウンドリフトで分離する運用が現実解です。DI-Boxの基本は「DIボックスとは」でまとめています。
編集部が配信オペレーションを担当した際、PCのUSBハブ経由で電源を取っていた小型機材が原因で、配信音声側にだけ60Hzのうねりが乗った経験があります。DI後段でグラウンドリフトを上げただけで、うねりは消えました。
アースとループに敏感な機材との併用
ペダルボードのほか、ワイヤレスシステム、IEM送信機、無線マイクの受信機が同じ電源タップに集まると、相互にノイズを送り合うことがあります。楽器側の電源タップと、PA・配信機材側のタップを物理的に分けるだけでも改善が見られる現場は多くあります。電源タップに余裕がある会場ばかりではないため、ライブ前のセッティング時にタップ構成を見ておく習慣をつけたいところです。
まとめ|電源は「音作り」ではなく「音を汚さないための土台」
エフェクター電源は、音作りそのものではなく、音を汚さずに次段へ送り出すための土台です。9Vセンターマイナスを基本に、消費電流を合算してパワーサプライ容量の3/4以下に抑え、ノイズ対策のためにアイソレート出力を選ぶ。この3つを押さえれば、足元の電源で消耗する時間は確実に減ります。
電源が整ったら、次はペダルの並び順とハウリング対策を整理する段階です。エフェクターの順番設計は「エフェクターの順番」、ハウリングの原因切り分けは「ハウリングの原因」をあわせてご覧ください。